1.量子テレポーテーションは「A点での量子状態が消え、それが別のB点に現れる」ことで、まるでSFみたいだが、A点での量子状態がB点に現れる。この量子状態に情報としての意味を持たせれば、A点からB点に情報が伝わったことになる。
2.量子テレポが将来の情報通信・処理技術の基礎中の基礎と言われる。東大古澤明助教授は3つの光子に共通した量子的なもつれ(量子エンタングルメント)を持たせて3者間でこれを制御、世界で初めて3者間での量子テレポ実験に成功し、量子による情報通信・処理NWが組めることを実証した。
3.電流、電圧、磁場、光の強弱など古典的物理学の動作原理に基づく現在の情報通信・処理技術は処理速度や記憶容量を日々向上させて来た。その限界を迎えるときがくる。2000年に東大に来るまで光学メーカーで、光化学ホールバーニング、フォトンエコー、量子光学の研究をしていた古澤助教授。
4.現在の通信、FAXで原稿を送れば受信側には原稿のコピーが現れ、送信側には原稿が残る。量子テレポでは郵送でもないのに原稿自体が相手に届いた様になる。量子には、AB両点に同時に姿を見せることはあり得ず、B点に現れたということはA点では消えたことになる。
5.物理的な量の最小単位である「量子」は極めて不安定だが、量子力学的効果を積極的に用いることにより従来は不可能であった動作が可能となる。半導体の集積度は1年半から2年で倍増するムーアの法則によると、2020年にはLSI(大規模集積回路)中の1個のTrゲートを走る電子は1個を切る。
6.光子の場合と同様に、古典的な考え方なら、ここで行き止まりで、こうした限界を乗り越えようと、量子物理学に立脚した新しいアプローチが始まっている。量子もつれ制御による量子テレポは、電子系やイオン系でも可能だが、光子系では光の量子状態は鏡で光を跳ね返している限りは壊れない。
7.実験の中で3つの光子は、送信者/受信者/制御者のいずれかの役割を果たす。3者全員に量子的にもつれさせた光ビームを送る。これで3者は見えない糸で量子もつれを共有した。送信者はこの光ビームと送りたい量子情報を含む光ビームを合わせて測定、その結果を受信者に送る。
8.制御者も自分の所に来ている量子もつれの光ビームを測定、その結果を受信者に送る。受信者は、送信者と制御者からの情報の雑音を、自分の所に来ている量子的にもつれた光ビームを用いて消し、送信者が入力した量子情報を再現する。
9.制御者無しでは送/受信者間の量子テレポは起きない。3者ではお互いに量子的に“もつれ”ているが、2者同士では“もつれ”ていないので、そのままでは量子テレポはあり得ない。3者でなら互いに“もつれ”ている制御者が加わること、3者全員の情報が揃って初めて送/受信者間の量子テレポが実現
10.古澤助教授は、CA工科大学で研究中の1998年に2者間での量子テレポ実験に成功、今回の成功でネットワークが組めることが証明された。この意味が如何に大きいかは、英国の科学誌「ネイチャー」が本成果の投稿論文を昨年の9月23日号の表紙に掲載したことでも分かる。
11.2者での量子もつれの制御は、握手のようにお互いが片手だけで結ばれたようなものだ。それが、3者の量子エンタングルメント制御になると、3人が互いに両手を伸ばして結ばれたようになる。これで初めてリングとなり、ネットワークが組める。