ある女子大教授の つぶやき

日常の生活で気がついたことを随想風に綴ってみたいと思います。
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ドイツ高速鉄道の事故調査
ドイツ高速鉄道の事故調査
1.今から9年前の1998年6月3日に、ドイツのハンブルク市の南で列車が脱線転覆して死者101名、重軽傷者105名という
ドイツ国鉄始まって以来の大惨事が発生した。この事故の調査委員会にはドイツ国内だけではなく各国から数人の専門鑑定人が招かれて、事故原因の究明に当たった。専門鑑定人の1人であった平川教授が最近まとめられた本を手にしたので、その感想をまとめておく。
平川賢爾著:ドイツ高速鉄道脱線事故の真相 慧文社 4000円
* 略歴:京都大学工学部、住友金属工業株式会社、九州大学教授、九州職業能力開発大学校名誉校長


2.この事故の原因は、わりとはっきりしていて、車輪として導入されたゴム弾性車輪の外輪の疲労破壊であることは明確であった。問題はこの車輪を導入したときに、このような事故を想定してそれに対して、開発した技術者が十分な対策を取ったかどうかということと、危険を予知して必要な点検と保守を実施していたかどうかという問題であった。

3.平川教授と鑑定人たちはこれに対して、疲労の実験、FEMによる応力解析、破壊力学による検討を実施して、この車輪を開発した当時としては最高の技術を導入してすべての試験を実施したと結論して、この事故は予見できない不可抗力によるものと鑑定して、技術者には重大な過失はなかったとした。ドイツの裁判所もこの結果を受け入れて、被告人の3名の技術者に対して、無判決として結審した。そしてゴム弾性車輪は姿を消した。

4.4年にもわたる教授のこの事故に対しての実験と研究、3ヶ月の裁判の過程など、教授以上にはこの事故に対して知ることは出来ないものが、軽々しく意見を述べることは差し控えたい。ただ、過去に鉄鋼業に携わり、国際標準化機構(ISO)の鉄鋼製品部門TC17の委員長を10年務めたことから、そこで当時話題となった疑問点だけを述べさせていただくことにする。

5.この事故が起きたときに機械系の技術者なら、まずゴム弾性車輪という一体構造車輪と比べて複雑な構造の車輪は繰り返しの付加に対する応力集中や疲労には脆弱であると判断するであろう。それでもこの車輪が振動吸収力に優れていたから、種々の試験を経て実車に採用されたものと考えられる。

6.そして次の思いは、この車輪を使っているうちに磨耗してゴムの外側の外輪径が減少していくことに対しての基準の設定はどのようにして決められていたのであろうか。この設定基準値の決め方はかなり難しいことではないかと想像できる。そこのところに保守点検部門での判断ミスが生じる危険は皆無とは言えないのではなかろうか。

7.レールと車輪の相互関係は日本と欧州では設計思想が全く異なり、日本の場合はレールよりも車輪を磨耗させて車輪を定期的に交換するが、欧州ではその逆で、レールの方を交換するものと思っていた。このゴム弾性車輪では、車輪を交換する方式がとられていたのであろうか。そうなれば、設計思想の変換が行われていたことで、もしそうであれば重大なことと思う。

8.技術の発展は事故の歴史と言っても過言ではないであろう。19世紀の初頭、英国で商用鉄道が誕生して以来、線路の破断、車軸の破損、車輪の破壊など多くの事故を通して、現在の新幹線の安全性が確保できていると信じている。航空機の発達にも、英国で初めて誕生したジェット旅客機コメットの度重なる墜落原因の調査から、安全性を高めた現在の姿が誕生してきている。

9.技術者は新しいことに挑戦する運命にあるが、それに伴うこれまでの知見では予想しきれない問題に直面することが許されないと、人類は新たな歴史を得ることが出来ない。このゴム弾性車輪もそのような技術の発展の中で起きた悲劇かもしれない。だからと言って技術者は未知の世界への挑戦を恐れてはならないと著者と同様に考えている。
* 平川賢爾著:ドイツ高速鉄道脱線事故の真相 慧文社 4000円
* 略歴:京都大学工学部、住友金属工業株式会社、九州大学教授、九州職業能力開発大学校校長
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コメント有難う御座いました。
次の続編もご参照いただけると幸いです。
http://iiaoki.jugem.jp/?eid=877
| ゴロー | 2007/05/19 10:32 PM |
はじめまして
私は、非破壊検査技術にかかわるものですが、以前から平川さんの紹介されている著作については、学ぶところが多く、話題になり議論されるべきものと思っていました。今回のジェットコースター事故に絡んで、私のブログでも紹介しました。State of the artというキーワードをどのようにとらえていくか、少なくともマスコミ報道等には明らかにかけている視点だと思います。
| SUBAL | 2007/05/19 7:58 PM |
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中世よりハンザ同盟の中心的役割を果たした都市の一つでもあり、港湾都市として発展した。ドイツ第一の、欧州連合の中でも第二の港湾規模である。産業構造の変化にともない、近年は情報産業、航空産業、精密産業などの誘致に熱心で、多くの国際企業が拠点をおいている。
| ドイツがすごい | 2007/07/06 1:02 AM |
State of the art
本の紹介です。 平川賢爾著「ドイツ高速鉄道脱線事故の真相」(慧文社刊)です。19
| かたちのココロ | 2007/05/19 11:11 PM |
ドイツ高速鉄道事故の続き
ドイツ高速鉄道事故の続き  ドイツ高速鉄道の事故の記事中に、レールと車輪の設計についての日本と欧州の思想の違いについて記述したところがあったが、この点いついての詳細について、平川先生にお聞きしたところ、下記のような貴重で興味のあるご回答をいただいたの
| ある女子大教授の つぶやき | 2007/05/11 6:39 PM |
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